「自分で歯磨きができているから大丈夫」
そう思っていても、年齢を重ねると、歯と歯の間や歯ぐきの境目に汚れが残りやすくなります。
特に注意したいのが、歯がたくさん残っている高齢者です。
歯があることは、食事を楽しみ、かむ力を保つうえで大切です。しかし、歯の本数が多いほど、磨かなければならない場所も増えます。
口の中に残った細菌は、唾液と一緒に気管へ入り、誤嚥性肺炎につながる可能性があります。
大切なのは、「自分で磨けるか」だけではなく、きれいに磨けているかを確かめることです。

誤嚥性肺炎は口の中の細菌が関係することがある
誤嚥性肺炎とは、唾液や食べ物などが誤って気管に入り、口の中の細菌が肺まで運ばれることで起こる肺炎です。

むせなくても誤嚥することがある
食事中に激しくむせれば、周囲も異変に気づきやすくなります。
しかし、高齢になると、むせや咳がほとんど出ないまま唾液が気管へ入ることがあります。これを「不顕性誤嚥」といいます。
眠っている間に起こることもあるため、本人や家族が気づかない場合も少なくありません。
飲み込む力や咳で押し出す力が弱くなると、口の中の細菌を含んだ唾液が肺へ入りやすくなります。
そのため、誤嚥を完全になくすことだけでなく、口の中の細菌を減らしておくことも大切です。

特別養護老人ホームの研究でわかったこと
国内の特別養護老人ホームに入所していた高齢者366人を対象に、口腔ケアと肺炎の関係を調べた研究があります。
口腔ケアを受けるグループでは、介護職員や看護師による毎食後の歯磨きに加えて、週1回、歯科医師や歯科衛生士による専門的な口腔清掃が行われました。
その結果、口腔ケアを受けたグループでは、受けなかったグループに比べて、発熱した人、肺炎を発症した人、肺炎で亡くなった人が少なかったと報告されています。
ただし、この研究だけで、すべての高齢者に同じ効果が出るとは断定できません。
それでも、日常的な歯磨きと専門職による確認を組み合わせることが、健康管理の一つとして大切であることを示した研究といえます。

「歯が多いから安心」とはいえない理由
歯が残っていることは、食べる力や生活の質を支える大切な要素です。
一方で、歯が多ければ、それだけ汚れがたまりやすい場所も増えます。

汚れが残りやすい場所
特に注意したいのは、次のような部分です。
・歯と歯の間
・歯と歯ぐきの境目
・奥歯の内側
・かぶせ物や入れ歯の金具の周囲
・ぐらついている歯の周囲
高齢になると、手指の力や細かな動きが低下することがあります。
本人はいつも通り磨いているつもりでも、歯ブラシが奥歯まで届いていなかったり、同じ場所だけを磨いていたりすることがあります。
視力の低下や認知機能の変化が重なると、歯磨きを忘れる、短時間で終わる、磨いたこと自体を忘れるといったことも起こります。
「歯ブラシを持てるから大丈夫」と決めつけず、磨いた後の状態までやさしく確認しましょう。

歯がない人も口腔ケアは必要
歯がない場合でも、口腔ケアが不要になるわけではありません。
舌、歯ぐき、頬の内側、上あご、入れ歯などにも細菌や食べかすは付着します。
入れ歯は外して洗い、口の中もやわらかいブラシや湿らせたガーゼなどで清潔にします。
入れ歯を入れたまま眠ると、粘膜に負担がかかる場合があります。歯科医師から別の指示を受けていなければ、夜は外して清掃・保管するのが一般的です。

口腔ケアと認知機能・生活の質との関係
先ほどの研究では、口腔ケアを受けた人のほうが、認知機能の低下が抑えられる傾向も報告されました。
ただし、歯磨きをすれば認知症を予防できると証明されたわけではありません。因果関係は明確になっていないため、断定はできません。
それでも、口の中を刺激することや、自分で歯ブラシを動かすことは、手や口を使う機会になります。
口の中が清潔になると、痛みや不快感が減り、食事や会話を楽しみやすくなることもあります。
しっかり食べる、話す、人と交流するという習慣は、体力や生活の質を保つうえでも大切です。

今日から始められる口腔ケア

1日2回以上を基本にする
朝と就寝前を基本に、可能であれば食後にも口の中をきれいにします。
特に就寝中は唾液の量が減り、細菌が増えやすくなるため、寝る前の歯磨きを丁寧に行いましょう。
一度に完璧に磨こうとせず、朝は前歯、夜は奥歯を念入りにするなど、負担を分けても構いません。

小さめの歯ブラシで順番を決める
口の中で歯ブラシを動かしやすい、小さめのヘッドを選びます。
「右上の奥歯から始める」など、毎回同じ順番で磨くと、磨き残しを減らしやすくなります。
歯ブラシは強く押しつけず、小刻みに動かします。
歯と歯の間には、歯間ブラシやデンタルフロスが役立つ場合があります。適切なサイズは歯科医院で確認すると安心です。

月1回は家族が口の中を確認する
明るい場所で、口臭、歯ぐきの腫れ、出血、食べかす、入れ歯の汚れなどを確認します。
毎日の介助が必要な人は、月1回ではなく、できる範囲で日々の見守りを行いましょう。
「ちゃんと磨いて」と注意するよりも、次のような声かけがおすすめです。
「奥歯だけ一緒に確認しようか」
「きれいになって気持ちよさそうだね」
「難しいところだけ手伝ってもいい?」
本人の自尊心を守りながら、できない部分だけを補うことが大切です。

定期的に歯科で確認する
自分では磨けていると思っていても、歯石や歯周ポケットの中の汚れは取り除けません。
体調や口の状態によって異なりますが、少なくとも数カ月に1回を目安に、歯科医師や歯科衛生士へ相談しましょう。
外出が難しい場合は、訪問歯科診療を利用できることがあります。担当のケアマネジャーや地域包括支援センターにも相談できます。

むせや発熱が続く場合は早めに相談を
次のような変化がある場合は、歯磨きだけで様子を見続けず、医療機関や歯科医療機関へ相談しましょう。
・食事や水分でむせることが増えた
・食後に声がガラガラする
・痰が増えた
・微熱や発熱を繰り返す
・食事に時間がかかる
・食欲や体重が落ちてきた
・口の中に痛みや出血がある
息苦しさ、意識の変化、強い発熱などがある場合は、速やかに医療機関へ連絡してください。

まとめ
歯が多く残っていることは、食べる力を保つための大きな財産です。
しかし、歯が多いほど、汚れが残りやすい場所も増えます。
「自分で歯磨きができるから大丈夫」ではなく、磨き残しがないか、定期的に確認することが大切です。
まずは、寝る前の歯磨きを少し丁寧にすることから始めてみましょう。
毎日完璧にできなくても大丈夫です。本人ができることを大切にしながら、家族や専門職が少しだけ支えることが、無理なく続けるポイントです。

Well Aging Support やわらぎでは、運動だけでなく、食事、口の健康、生活習慣なども含めた介護予防を大切にしています。
京都市周辺で、自分や家族に合った健康づくりを知りたい方へ。無理なく続けられる方法を一緒に考えます。
「まだ介護予防を始めるほどではないかな」と感じている段階でも、どうぞ安心してご相談ください。
「最近、親の食事中のむせが増えた」
「歯磨きをどこまで手伝えばよいかわからない」
「地域や施設で口の健康を含めた介護予防に取り組みたい」
このような個人、ご家族、施設、地域団体からのご相談を受け付けています。
今の生活を大きく変えるのではなく、できることから一緒に整理していきましょう。


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